がん治療は日進月歩で進化しており、手術、放射線治療、化学療法といった従来の治療法に加えて、より精度の高く、患者個々の状態に合わせた新たな選択肢が次々と登場しています。治療の目的も、完治を目指す「根治治療」、がんと共に生きる期間の延長と生活の質(QOL)を保つ「延命・コントロール治療」、症状を和らげる「緩和ケア」と、多様化しています。このガイドでは、現在のがん治療において主流となっている治療法と、近年注目を集める最新の治療アプローチについて、その基本的な仕組みと特徴を整理します。さらに、どのようにして治療法が選択され、治療を受ける施設を探す流れについても概説し、最後に治療に関するよくある疑問にお答えします。
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第1部:現在のがん治療の主な柱
現在のがん治療は、以下のような複数のアプローチを単独または組み合わせて行う「集学的治療」が標準となっています。
- 手術(外科治療): がんの病巣を直接切除する方法。技術の進歩により、体への負担が少ない腹腔鏡手術やロボット支援手術(ダヴィンチ手術など)が適用可能な場合が増えています。
- 放射線治療: 高エネルギーの放射線をがんに照射して細胞を死滅させる治療。周囲の正常な組織への影響をより少なくするために、強度変調放射線治療(IMRT)や粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療)など、より精密な照射技術が開発・普及しています。
- 化学療法(抗がん剤治療): 薬剤を投与して全身のがん細胞を攻撃する治療。従来の細胞障害性抗がん剤に加え、作用機序の異なる様々な薬剤が利用可能です。
第2部:注目される最新の治療アプローチ
従来の治療法に加え、がんの特性に応じて選択肢となる新しい治療法が実用化されています。
1. 分子標的治療:
がん細胞の増殖や生存に特異的に関わる分子(タンパク質など)を標的とした薬剤を用います。正常細胞への影響を抑え、より効果的にがんを攻撃できることが特徴です。例えば、特定の遺伝子変異(EGFR、ALKなど)を持つ肺がんに対して、その変異を標的とする薬剤が使われます。
2. 免疫療法:
患者自身の免疫システムの力を高めて、がん細胞を攻撃させる治療です。特に「免疫チェックポイント阻害剤」は、免疫細胞のブレーキを外すことで抗腫瘍効果を発揮し、悪性黒色腫(メラノーマ)や一部の肺がんなどで成果を上げています。その他、自身の免疫細胞を体外で増強・活性化させて戻す「免疫細胞療法」(CAR-T細胞療法など)も、特定の血液がんなどで実施されています。
3. その他の局所療法:
- 粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療): 従来のX線治療に比べて、がん病巣に放射線エネルギーを集中させやすく、周囲の正常組織への影響を軽減できる可能性があるとされています。特に手術が難しい部位や小児がんなどでの適応が検討されます。
- 腫瘍溶解性ウイルス療法: がん細胞に選択的に感染して破壊するウイルスを利用した治療法。日本でも一部のがん種で承認・適用が始まっています。
第3部:治療法の選択と治療を受けるまでの流れ
どの治療法を選択するかは、がんの種類や進行度(病期)、患者の全身状態、そして本人の意向などを総合的に考慮して決定されます。
一般的な選択と決定のプロセス:
- 精密検査と診断: 病理検査や画像検査(CT、MRI、PETなど)により、がんの種類、病期、遺伝子特性などを詳細に調べます。
- 治療方針の決定(カンファレンス): 外科、内科、放射線科などの複数の専門医が集まる「腫瘍ボード」などで症例が検討され、標準的で最適と考えられる治療方針案が話し合われます。
- 説明と同意(インフォームド・コンセント): 主治医から、提案された治療法の目的、予想される効果、起こりうる副作用やリスク、他の選択肢などについて詳しい説明があります。患者はその情報に基づいて治療の選択について考え、同意を行います。
第4部:高度な治療が受けられる施設を探す
特定の最新治療(例えば粒子線治療や特定の免疫療法)を希望する場合、それらを実施している施設を探す必要があります。
主な情報収集の方法:
- かかりつけ医または主治医に相談する: 最初の窓口は現在診ている医師です。専門的な治療が必要な場合、適切な高度治療機関を紹介してもらえることがあります。
- 国立研究機関や大学病院のホームページを参照する: 日本では、国立がん研究センターや各地の大学病院が、先進医療や臨床試験の情報を公開しています。実施している治療法の一覧が掲載されていることが多いです。
- 学会認定施設を調べる: 日本医学放射線学会や日本癌治療学会などが、特定の治療(例:粒子線治療)に関する認定施設のリストを公表している場合があります。
第5部:治療に関わるサポート体制
がん治療は、身体的にも精神的にも負担がかかることがあります。そのため、治療そのものだけでなく、以下のようなサポート体制が整備されつつあります。
- 緩和ケアチーム: 痛みや倦怠感などの身体的症状や、不安や抑うつといった精神的苦痛を専門的にサポートするチームです。治療の早い段階から関わることで、生活の質を維持することを目指します。
- 看護師・薬剤師による副作用管理: 治療に伴う様々な副作用について、適切な対処法の指導や薬物管理を行います。
- 栄養サポート: 治療に耐えられる体力を保ち、治療効果を高めるための栄養指導が管理栄養士によって行われることがあります。
第6部:よくある質問(Q&A)
Q:最新の免疫療法は、すべてのがんに効きますか?
A:そうではありません。免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害剤は、特定のがん種(悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がんなど)や、腫瘍細胞が特定の生物学的マーカー(PD-L1など)を発現している患者さんで効果が期待される治療です。効果があるかどうかは、がんの種類や個々の腫瘍の特性によります。
Q:先進医療を受けるには、どれくらいの費用がかかるのでしょうか?
A:先進医療に該当する技術(例えば、陽子線治療の一部など)は、健康保険が適用されず、技術料が全額自己負担となる場合があります。一方、薬剤として承認された分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤は、健康保険が適用されます。ただし、どのような条件で保険が使えるかは、薬剤とがんの種類によって細かく定められています。具体的な費用については、治療を実施する医療機関に直接確認することが必要です。
Q:臨床試験に参加するメリットとデメリットは何ですか?
A:臨床試験に参加する潜在的メリットは、まだ標準治療として広く利用できない新しい治療法を早期に受けられる可能性があることです。デメリットとしては、期待した効果が得られない可能性、予期しない副作用が現れる可能性、また、検査や通院の回数が多くなる負担などが挙げられます。参加にあたっては、試験の目的や内容、リスクとベネフィットについて十分な説明を受け、納得した上で判断することが極めて重要です。
まとめ
がん治療は、画一的なものから、個別化・精密化されたものへと大きく進化しています。新たな治療法は、多くの場合、従来の治療法を補完したり、選択肢を増やしたりするものですが、すべての患者に万能というわけではなく、適応が限られることもあります。治療を考える上で最も基本となるのは、自分がかかっているがんの正確な情報(種類、病期、遺伝子特性など)を把握することです。その上で、標準治療を基盤としつつ、最新治療の可能性について主治医とよく相談し、治療の目標(根治、延命、緩和)と自身の価値観に沿った選択をしていくプロセスが重要です。信頼できる医療機関とオープンな対話を重ねることが、この難しい決断を支える礎となります。
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